今の時代、ビジネスにおいて「絶対的な正解」や「成功の方程式」は存在しません。私たちは日々、多様な価値観の中で揺れ動きながら、選択を重ねています。
私たちが配信しているPodcast『FLYDAYZ SWING』というタイトルには、そうした「揺らぎ(SWING)」の中にこそ、デザインを通じて価値観をより良くし、世界を少しずつ強くしていきたい、そんな想いを込めています。
今回は、私たちが日々向き合っている「広告」をテーマに、本音でゆるりと語り合いました。
なぜ今、多くの広告は「邪魔なもの」と受け取られてしまうのか。そして、愛されるブランドであり続けるために必要な「リテラシー」とは何か。
朝4時起きの頭で、率直に語り合います。
広告は「希望」か、それとも「ノイズ」か
大林:今日のテーマは直球ですが、「広告は人を幸せにできるのか?」について話したいと思います。僕自身は、広告そのものが直接人を幸せにするというよりも、広告を通じて少し前向きな気持ちになれたり、希望を持てたりすることで、結果的に幸せにつながるそんな存在だと思っています。
高橋:なるほど。実際に「これは幸せにつながっている」と感じた広告はある?
大林:昔から印象に残っているのが、相模ゴム工業さんの「サガミオリジナル」の映像広告。福岡と東京で遠距離恋愛をしている実在のカップルが、それぞれの家を出て走り出し、中間地点で出会うまでを描いたドキュメンタリー映像です。
高橋:最後に大阪城の前でようやく会えて、抱き合うシーンのものですよね?
大林:そうそう!抱き合った瞬間に距離が「0km」になり、最後は「それでも、愛に距離を」というコピーで締めくくられる。商品そのものはほとんど出てこないけど、「会いたい」「つながりたい」という純粋な感情にフォーカスしているからこそ、見る側も自然と「大切な人を大切にしよう」と思える。広告が人を前向きにする、良い例だと思います。
高橋:確かに素敵な例ですね。あの映像を最初に見たのは数年前ですが今でも記憶に鮮明に残っています。一方で、私はネガティブな例になってしまうけど、生活者として街中やスマホで日常的に目にする広告には、違和感や疑問を感じることも多いかもしれないです。正直、「いい広告が少ない」と感じることもありますね。
大林:どんなところに違和感を感じる?
高橋:今の広告って、「今のあなたのままでは足りない」という否定から入るコミュニケーションがとても多い気がしていて…。「目は二重の方がいい」「今の住まいではダメだ」といったように、友人同士なら面と向かってあまり言わないであろうことを、広告という装置を使った途端に平然と投げかけてくる。
「不快な広告」が生まれる構造的な問題
大林:確かに、コンプレックスを煽る広告は多いかもしれないですね。
高橋:YouTubeの動画前に流れる広告を見ていても、なぜこれが今も回り続けているのか、不思議に思うことがある。あれだけ回り続けているということは、一定のクリック数や再生数といった成果は出ているんですよね。ただ、「どれだけ見られたか」という数字だけが評価指標になり、本来目指すべきブランドの姿と乖離しているケースも多いと感じるかも。
大林:Youtubeの動画前の広告…アマギフもらえるやつね(笑)運用の現場ではKPI達成が正義になりがちですからね。でも、受け手が求めていないタイミングで強制的に割り込む広告は、誰も幸せにしていないことも多いかもしれないね。
高橋:例えば、料理中にレシピサイトを見ているときに、まったく関係のないコンプレックス商材のバナーが表示されて、しかも「×」ボタンが小さくて消せない……。あれは「おいしい唐揚げを作りたい」という体験を邪魔しているだけで、誰の得にもなっていない気がします。
大林:怖いのは、ユーザーがそれを「運用会社が勝手にやっている」とは捉えないこと。「あの企業が、こんな広告を出しているんだ」と、広告主そのもののブランドイメージが傷ついてしまう。
ブランド側に求められる「運用リテラシー」と「世界観」
高橋:だからこそ、広告主側にも「自分たちはどうユーザーと向き合いたいのか」というリテラシーが求められると思います。「数字が出るなら何でもいい」と丸投げするのはできるだけ避けて欲しい。
大林:「私たちはこういう表現はしない」「こういう場所には出さない」 というガイドラインを持つこともブランディングの大切な一部ですね。
高橋:その通りだと思います。ブランディング、動画、広告運用と、それぞれ優秀なチームを集めても、横串を通す「共通言語」や「美意識」がなければ、数字だけを追って暴走してしまう可能性がある。
大林:そこで重要になるのが「世界観」ですね。例えばNIKEは、ずっと「Challenge(挑戦)」というメッセージを発信し続けている。「靴を買ってください」ではなく、その姿勢やバイブスに共感するからこそ、 人はNIKEの世界観に参加したくなり、結果として商品を選ぶ。だから広告は「強制」ではなく、「応援」や「エンパワーメント」であるべきだと思います。企業とユーザーが、世界観を共につくる「共創」の関係になれたら理想ですね。
BtoBにおける広告の役割と「誇り」
大林:BtoBの話をすると、例えばネジを作っているような企業であっても、広告は必要だと思っています。それは売上のためだけでなく、インナーブランディング、つまり社員の誇りにつながるからです。
高橋:自分たちの仕事が社会の役に立っていると実感できると、働く意味や誇りにもつながりますよね。
大林:結局、BtoBでもBtoCでも、相手は「人」です。「どうすればみんながより良く生きられるか」という根本は同じで、広告はそのための手段のひとつに過ぎません。私たちはよく「デザインを探求しよう」と言いますが、それは唯一の正解を見つけることではありません。KREVAさんの歌詞にある「最高はひとつじゃない」という言葉のように、状況や視点によって変わるたくさんの正解を知り、ブランドと生活者の適切な関係性を探し続けることが大切だと思っています。
高橋:私たちも「これが正解です」と押し付けるのではなく、お客さんと一緒に、その時々のベストを探し続けていきたいですね。
まとめ
- 広告主側のリテラシーがブランドを守る 運用を丸投げせず、「何をするか」だけでなく 「何をしないか」を定めるガイドラインと美意識が重要。
- KPIの罠に陥らない クリック数や再生数だけを追うと、ブランドを損なう広告になりかねません。 数字の裏にある「ユーザーの感情」を想像することで、表現の可能性は広がります。
- 「強制」ではなく「応援」のコミュニケーションを 人を否定して動かすのではなく、 世界観に共感し、参加したくなる関係性づくりを目指す。